STP分析とは?やり方やマーケティングでの活用事例をわかりやすく解説

STP分析とは

STP分析は、マーケティングの代表的なフレームワークの一つで、フィリップ・コトラー氏によって提唱されました。この手法は、新しい商品やサービスの開発や新市場への参入時に、市場や競合状況を分析するために活用されます。STPは「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の頭文字を取ったものです。

  • Segmentation(セグメンテーション):市場を何らかの基準で細分化するプロセスです。例えば、年齢、性別、収入、趣味などの基準に基づいて市場を分割します。
  • Targeting(ターゲティング):細分化された市場の中から狙うべきセグメントを選定します。選定基準には市場規模、成長可能性、競争状況などが含まれます。
  • Positioning(ポジショニング):競合との対比の中で自社の製品やサービスの位置を決定します。これは、消費者に対する自社の独自性や価値を明確に伝えることを意味します。

STP分析を活用することで、市場戦略を策定し、具体的なマーケティング戦略を立案することができます。この手法は、新規事業を展開する際や既存市場での再ポジショニングが必要な場合に有効です。

具体的には、まず市場をセグメンテーションで細分化し、次にターゲティングで狙うべき市場を決定します。最後に、ポジショニングを通じて競合と比較しながら自社の立ち位置を明確にします。このプロセスにより、消費者に商品やサービスを効果的に訴求できます。

マーケティング戦略でのSTP分析の位置付けと目的

STP分析は、マーケティング戦略の中で重要な役割を果たし、その主な目的は市場での競争優位を確立し、シェアを拡大することです。これを実現するために、市場を細分化(セグメンテーション)し、ターゲットを明確にし、立ち位置(ポジショニング)を決定します。こうすることで、競合との差別化が可能となり、独自の市場シェアを確保するための要素を見つけることができます。なお、STP分析は、新規事業の企画だけでなく、既存の商品やサービスにも適用できます。市場や顧客のニーズは常に変化するため、STP分析を定期的に行い、市場やターゲット、競合、自社の立ち位置を見直し、戦略を柔軟に調整することが重要です。このように、STP分析はマーケティング戦略の基盤として機能し、競争力を高め、市場での成功を支えるために欠かせない手法です。

3C分析、4P分析などとの関連性

マーケティング戦略を効果的に策定するためには、STP分析だけでなく、他のフレームワークとの組み合わせが重要です。ここでは、3C分析と4P分析との関連性を説明します。

3C分析

3C分析は、マーケティング戦略を策定する際に重要な以下の3つの要素を分析します。

  • Customer(顧客):顧客のニーズや行動パターンを理解します。
  • Company(自社):自社の強みや弱みを評価します。
  • Competitor(競合):競合他社の戦略や市場での位置づけを分析します。

3C分析は、STP分析の前段階として市場環境を理解するのに役立ちます。例えば、新しい健康飲料を市場に投入する際、3C分析を行うことで、顧客の健康志向の高まり、自社の製品開発能力、そして主要競合他社の戦略を理解し、適切なセグメンテーションとターゲティングが可能になります。

4P分析

4P分析は、マーケティングミックスと呼ばれ、以下の4つの要素を最適化することを目指します。

  • Product(製品):顧客に提供する製品やサービス
  • Price(価格):製品やサービスの価格設定
  • Place(流通):製品やサービスの流通チャネル
  • Promotion(プロモーション):製品やサービスの宣伝活動

4P分析は、STP分析で決定されたターゲット市場に対して、どのように製品やサービスを提供するかを具体化するために活用します。例えば、前述の健康飲料の場合、ターゲット市場が若い健康志向の消費者であれば、製品の特徴(低カロリー、高栄養価)、価格設定(競争力のある価格)、流通チャネル(オンライン販売と専門店)、プロモーション(SNSを活用した広告)を最適化します。このように、3C分析と4P分析は、STP分析と密接に関連し、総合的なマーケティング戦略の策定において重要な役割を果たします。

STP分析を利用するメリット

企業がSTP分析を利用することで、以下の3つのメリットを得ることができます。

顧客ニーズに適したビジネスを展開できる

STP分析を活用することで、顧客の多様なニーズや市場の特性を把握し、それに基づいてビジネスを展開することができます。市場を細分化し、異なるニーズを持つ顧客グループを明確にすることで、ターゲット市場に最適な製品やサービスを提供することができます。

例えば、化粧品業界では、年齢層や肌のタイプに応じた製品ラインを開発することで、顧客満足度を向上させ、リピーターの増加や新規顧客の獲得が期待できます。具体的には、若年層向けの「ニキビケアシリーズ」や、シニア向けの「エイジングケアライン」などです。

自社の製品やサービスの強みを明確にできる

STP分析を通じて、自社の製品やサービスの強みや市場での独自のポジションを明確にすることができます。ポジショニングや強みを具体的に言語化し、チームメンバー全員に共有することで、一貫したマーケティング活動を展開することが可能となります。

例えば、ある食品メーカーが「健康志向で自然由来の材料を使用している」という強みを明確にすることで、ヘルスコンシャスな消費者をターゲットにしたマーケティング戦略を展開できます。具体例としては、オーガニック素材のみを使用した「ナチュラルグラノーラ」や、無添加の「ヘルシースナック」などの商品展開です。

自社に優位な市場を狙える

STP分析を行うことで、競合他社と直接対決することなく、効率的に自社に優位な市場を狙うことができます。市場を細分化し、各セグメントの特性やニーズを分析することで、競合が手薄なセグメントを見つけ出し、自社が優位に立てる市場をターゲットにすることが可能になります。

例えば、テクノロジー企業が特定のニッチ市場、例えばシニア向けの簡易スマートフォン市場をターゲットにすることで、競合が少ない中で市場シェアを拡大することができます。 具体的には、大きな文字表示や簡単な操作性を特徴とする「シニアスマホ」や、緊急連絡機能を搭載した「高齢者向けケアフォン」などの商品開発です。

STP分析のやり方

STP分析は、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3つのステップを通じて、市場を分析し適切なマーケティング戦略を策定します。以下に、それぞれのステップについて詳しく説明します。

1. セグメンテーション

セグメンテーションでは、市場をいくつかのセグメント(小さなグループ)に分け、異なるニーズや特性を持つ顧客グループを特定します。セグメントの基準には、以下があります。

セグメントの基準

説明

具体例

地理的変数(ジオグラフィック変数)

顧客の居住地や地域に基づいて市場を分ける基準。

  • 地域(都市部、地方)
  • 気候:(温暖、寒冷)

人口動態変数(デモグラフィック変数)

年齢、性別、収入、職業、教育などの人口統計データに基づいて市場を分ける基準。

  • 年齢(若年層、中年層)
  • 性別(男性、女性)

心理的変数(サイコグラフィック変数)

顧客のライフスタイル、価値観、性格などに基づいて市場を分ける基準。

  • ライフスタイル(アクティブ、インドア)
  • 価値観(環境意識が高い、家族重視)

行動変数(ビヘイビアル)

顧客の購入頻度、使用状況、ブランドロイヤルティなどの行動に基づいて市場を分ける基準。

  • 購入頻度(定期購入、一度きり)
  • 使用状況(ヘビーユーザー、ライトユーザー)

「4Rの原則」を用いてセグメントの有効性を分析

セグメンテーションを行う際には、「4Rの原則」を活用することで、各セグメントの有効性をより深く分析できます。

  • Rank(優先度):各セグメントの重要度や優先順位を評価。
  • Realistic(有効性):セグメントの現実的な有効性を判断。
  • Reach(到達可能性):各セグメントにどれだけ効果的にリーチできるかを分析。
  • Response(測定可能性):セグメントの反応を測定しやすいかどうかを評価。

場合によっては「6R」のフレームワークを用いることもあります。この場合、以下の要素が追加されます。

  • Rate of growth(成長性):市場がどれだけ成長を見込めるかを評価。
  • Rival(競合の状況):競合他社の製品やサービス、シェア率などを分析。

2. ターゲティング

次の段階では、セグメントの中から自社の製品やサービスに最も適したターゲット市場を選定します。以下の3つの手法を活用すると効果的です。

手法

説明

具体例

差別型マーケティング

異なるセグメントごとに異なるマーケティング戦略を展開する手法。各セグメントの特性に最適なアプローチが可能。

自動車メーカーが、家族向けにはミニバン、若者向けにはスポーツカーを提供する。

無差別型マーケティング

全てのセグメントに対して同一のマーケティング戦略を展開する手法。全体市場に対して広くアピールし、大規模な市場シェアを狙う。

大手食品メーカーが全国で同一のスナック菓子を販売する。

集中型マーケティング

特定のセグメントに焦点を当ててマーケティング戦略を展開する手法。リソースを集中し、そのセグメントでの競争優位を築く。

高級時計メーカーが富裕層向けに特化した製品ラインを提供する。

これらの手法を適切に活用することで、自社のリソースを効率的に配分し、ターゲット市場での成功確率を高めることができます。

3. ポジショニング

ポジショニングでは、選定したターゲット市場に対して、自社の製品やサービスをどのように位置付けるかを決定します。顧客に提供する価値を明確にし、競合他社との差別化を図ることが重要です。これにより、「この商品といったらこの会社」という独自の位置づけを獲得します。

ポジショニングの段階では、2軸で作成するマトリクス上に自社や競合の製品・サービスを配置する「ポジショニングマップ」を作成し、視覚的に比較します。以下の図は、ポジショニングマップの例です。

市場で強い競合が存在する場合、独自の位置づけを獲得するのは難しいため、競合商品にはないメリットや強みを強調することが重要です。

ポジショニングマップ

STP分析の実例

STP分析を実際に活用できるよう、家電量販店を例に挙げて自社と競合のSTP分析を行います。

家電量販店A社【競合】

まずは、競合である家電量販店A社から見ていきましょう。

競合A社は、幅広い商品ラインナップと都市部の利便性、高品質な顧客サービスが特徴です。価格は中程度ですが、専門知識を持つスタッフによるサポートが充実しており、サービスの質は高いと評価されます。以下が、STP分析の結果です。

セグメンテーション

  • テクノロジー愛好者:最新のガジェットに関心が高く、高価格でも性能を重視
  • 価格重視の実用派:コストパフォーマンスを最重視し、セールや割引を狙う
  • 家族連れ・ファミリー層: 使いやすさと安全性を重視し、価格と品質のバランスを求める

ターゲティング

  • 競合A社は、以下の2つのセグメントを主要ターゲットに設定します。
  • テクノロジー愛好者
  • 家族連れ・ファミリー層

ポジショニング

競合A社では、都市部の利便性や幅広い商品ラインナップ、高品質な顧客サービスなどに強みがあることが分かりました。以下の図は、競合A社のポジショニングマップの例です。

ポジショニングマップ

家電量販店B社【自社】

次に、自社である家電量販店B社についてみていきましょう。

自社のB社では、地域密着型のサービスとコストパフォーマンスに強みがあります。価格は比較的低めですが、親しみやすいサービスと地域に密着したアフターサービスが特徴です。以下が、STP分析の結果です。

セグメンテーション

  • 価格重視の実用派:コストパフォーマンスを最重視し、セールや割引を狙う
  • 地域密着型の顧客: 地元での買い物を好み、親しみやすいサービスを求める
  • シニア層:使いやすさ、安全性、サポート体制を重視する
  • ファミリー層: 家族全員で使う製品を求め、品質とアフターサービスを重視する

ターゲティング

自社B社は、以下の2つのセグメントを主要ターゲットに設定します。

  • 価格重視の実用派
  • 地域密着型の顧客

ポジショニング

自社のB社は、地域に根ざした信頼性とコストパフォーマンスに強みがあると考えられます。以下の図は、自社B社のポジショニングマップの例です。

ポジショニングマップ)

続いて、絞り込まれたターゲット領域において、競合(A社)と自社(B社)のそれぞれの位置付けを明確にするためのポジショニングマップを作成します。

ポジショニングマップ

施策に活かす

ポジションマップを作成することで、自社と競合の立ち位置が明確になります。これに基づいて、自社のマーケティング施策に活かすためのポイントを以下にまとめます。

1. 強みの強化

自社では、地域密着型サービスとコストパフォーマンスをさらに強化します。具体的な取り組みとして、地域限定キャンペーンを実施し、地域のイベントに合わせた特別プロモーションを展開します。また、顧客ロイヤルティプログラムを導入し、地域の常連顧客に特別な割引や特典を提供することで、顧客のロイヤリティを高めます。

2. 差別化戦略

競合との差別化を図るため、自社ならではのユニークなサービスを提供します。具体的には、シニア層向けの特別サポートプログラムを導入し、専門のシニアアドバイザーによる個別のサービスを提供します。さらに、地元コミュニティイベントを積極的に開催し、地域の団体と協力して地域住民向けのイベントを主催します。

3. 新規ターゲットの開拓

新規ターゲットの開拓に向けては、テクノロジー愛好者向けの専門的な商品ラインナップを拡充し、専門スタッフの育成を行います。具体的には、専門店内でのイベントやデモンストレーションを開催し、テクノロジー製品の展示やデモを通じて顧客の関心を引きます。また、商品ラインナップの充実と販売員の専門教育を通じて、テクノロジー愛好者のニーズに応える準備をします。

4. 競合分析の継続

市場環境や顧客の変化に対応するために、競合の動向を定期的に分析し、それに基づいて戦略を定期的に見直します。定期的な競合分析レポートの作成と、リアルタイムな情報収集体制の強化により、新たな競合の登場や市場の変化に迅速に対応できるようにします。自社のB社では、これらの施策を実行することで、自社の市場での競争力を高め、持続的な成長を実現することができるでしょう。

STP分析の注意点と活用法

STP分析はマーケティング戦略を策定・実行していく際に有効なツールですが、実施する際にはいくつかの注意点があります。ここでは、STP分析をより効果的に行うために留意すべき代表的なポイントを紹介します。

多角的に分析する

最適なポジションが見つかっても、それが常に適切とは限りません。市場が小さすぎたり、成長率に不安があったりする場合、事業が失敗するリスクがあります。例えば、高齢化社会をターゲットにした製品は、需要が高いものの長期的見ると市場縮小のリスクがあります。このようなリスクを減らすためには、STP分析で見つけた市場が本当に適切かどうかを確認することが重要です。市場の規模や成長性を評価するために、STP分析に加えて他のフレームワーク(4P分析、PEST分析など)も活用し、多角的に分析しましょう。

分析の手順に柔軟性を持たせる

通常、STP分析は「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の順で進めますが、この順番に厳密に従う必要はありません。これらの要素は相互に関連しているため、どこから分析を始めても最終結果に大きな違いはありません。例えば、新製品の開発段階ではまずポジショニングから考え、その後ターゲティングとセグメンテーションを進めることも有効です。手順にこだわらず、可能な部分から分析を始めることで作業の停滞を防ぎましょう。

継続的な市場モニタリング

市場環境や顧客のニーズは常に変化しています。最初のSTP分析が正確であっても、時間の経過とともに、分析の有効性が低下するおそれがあります。定期的に市場動向をモニタリングし、必要に応じて分析結果を更新することが重要です。競合他社の動向や新たな市場トレンドを常に把握することで、柔軟かつ迅速に戦略を調整できます。

データの正確性と信頼性

STP分析に使用するデータの正確性と信頼性は非常に重要です。不正確なデータに基づく分析は誤った結論を導く可能性があります。例えば、顧客の購買データや市場調査の結果を使用する場合、そのデータが最新のもので、かつ信頼できるものであることを確認しましょう。信頼性の高いデータに基づいた分析は、より有効な戦略の策定に役立つでしょう。