アップセル・クロスセルとは?戦略の違いと提案方法

プランや品質の高い製品を提案するアップセル、関連商品やサービスを紹介するクロスセル。BtoCでもBtoBでも重要視されている両者の違いや手法の注意点を解説します。

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アップセル・クロスセルとは?戦略の違いと提案方法
目次

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アップセルとは

アップセルとは、顧客が購入したもの・購入しようとしているものよりも、上位のプランやモデルをおすすめすることで、顧客単価の向上を目指す営業手法の一つです。
例えば、オンラインストレージサービスの「Dropbox」は容量2GBまでの無料プランでユーザーを引き付け、大容量・高スペックを求める企業相手には有料の上位プランを提供することで収益を得るフリーミアム戦略をとっています。
Dropboxユーザーが利用中のプランの残り容量が少なくなってきたタイミングで「上位プラン」への切り替えを案内することでアップセルを図っています。その他、利用が多い顧客にはセキュリティ機能が優れたEnterpriseプランを勧めるなどの取り組みも行っています。

アップセルの手法

具体的なアップセルの手法には以下の3つの切り口があります。

アップセルの手法

具体例

上位・高級品化

  • 高性能商品のメリット訴求
  • 上位のクレジットカードの案内
  • 有料会員限定の機能や特典の宣伝

まとめ買い・数量割引

  • まとめ買いによる割引
  • 金額や数量による送料の無料化

長期契約の割引・特典

  • 年間契約での割引

いずれの手法も「上位プランの方がお得になる」「少しの出費で満足感が得られる」という心理に働きかけるものです。

顧客に満足感を与えることができるので、良好な関係の構築し継続するのにも効果的です。
ただし、しつこくなりすぎれば、失注したり顧客の信頼を失ったりもしますので、細心の注意が必要です。

また、これとは逆に、あえて価格の安い商品やサービスを提案して購買意欲を高めたり、解約を防止したりするダウンセルという手法もあります。

クロスセルとは

アップセルと、並行して行いたい営業手法にクロスセルがあります。

クロスセルとは、ユーザーが購入を検討している商品に関連したものを提案することで顧客単価の向上を目指す手法です。

例えば、スマートフォンの契約の際に画面の保護フィルムやケースをおすすめしたり、インターネット回線の契約に合わせてWi-Fiルーターの販売をしたりするのがクロスセルです。
その他、セキュリティサービスを提供する企業が「ネットワークセキュリティの監視・運用支援サービス」を契約した顧客に対し、セキュリティレベルをさらに向上させるために「セキュリティ診断サービス」や「社員教育・研修サービス」を提案するというような取り組みもあります。

クロスセルの手法

具体的なクロスセルの手法には以下の2つの切り口があります。

クロスセルの手法

具体例

関連商品の提案

  • ハンバーガー注文時にドリンクやポテトを提案する
  • コピー機のリース契約者にインクやコピー用紙の選択を提案する

補完的なサービスの提案

  • 自動車の販売時に整備保証の契約を提案する
  • クラウドサービスの契約者に導入支援や研修の提案をする
  • 会計サービスの利用企業に労務管理やバックオフィス支援のサービスを提案する

特に補完的サービスを提案することで、カスタマーサクセスに貢献する考え方も広まりつつあり、BtoB、BtoCを問わず重視されています。

アップセルとクロスセルの違い

ここまでお話しした通り、アップセルとクロスセルは顧客単価の向上を目指すという点は共通しています。

異なるのはその手法です。

アップセルは上位のプラン・商品の購入や、購入数の増加で顧客単価を上げるのに対し、
クロスセルは関連商品やサービスの購入で顧客単価の向上を目指します。

どちらが優れているということはなく、使い分けや組み合わせが重要です。

アップセル・クロスセルのメリット

アップセルやクロスセルを実施するメリットは以下の2つがあります。

  • 顧客単価LTV向上
  • 顧客満足度の向上

それぞれ詳しく確認していきましょう。

顧客単価・LTV向上

アップセルやクロスセルを実施して顧客単価が上がることによってLTVの向上を見込めます。

LTV(Life Time Value)とは「顧客生涯価値」を意味しており、ある顧客が取引を開始してから終了するまでの期間にどれだけの利益をもたらしてくれるかを表す指標です。

マーケティングの通説に「1:5の法則」や「5:25の法則」がありますが、いずれも新規顧客獲得ではなく既存顧客維持の有効性を説明する法則です。

※1:5の法則:顧客維持と比べて新規顧客獲得は5倍のコストを要するという法則
※5:25の法則:顧客の離脱を5%抑えることができれば利益率が25%向上するという法則

新商品や新エリアへの進出などを行わずに、顧客単価の向上を見込めるアップセルやクロスセルはLTV向上の効率的な手段といえます。

顧客満足度の向上

アップセルやクロスセルは販売側だけでなく顧客にとってもメリットがあります。

アップセルやクロスセルで提案するのは、使用中・検討中のものよりも上位の製品・サービスや、不足している部分を補う製品・サービスです。

顧客にとって役立つものが提供されるので、購入時・使用時の満足度は自然と高くなります。

また、まとめ買い割引での「お得感」も満足度につながりやすい要素です。

結果として、リピート購入や良い口コミの創出も期待できます。

アップセル・クロスセルのデメリット

イメージの悪化により顧客離れ

アップセル・クロスセルを実施する際、最も注意しなければならないのが、強引な営業による失注や信用の喪失です。

アップセル・クロスセルの提案は顧客が明確にニーズを持っていないものを宣伝する施策です。
顧客との信頼関係ができていないまま、強引に行い過ぎれば当然顧客からの印象は悪くなります。

また、複数のプランを紹介して選択肢が増えることで「選ぶのが面倒」「そもそも必要ない気がしてきた」などと思われるリスクもあります。

アップセル・クロスセルを提案する顧客を選定したうえで、ともすれば、押し売り、おせっかいと思われる行為という認識は忘れないようにしましょう。

アップセル・クロスセルのターゲットを絞ることが肝要

アップセル・クロスセルを成功させるためには、営業担当者の提案の仕方以上にターゲトの選定が重要です。

理想的なのは、アップセル・クロスセルに当てはまる購入をした顧客の属性や特徴を分析し、該当する顧客にアプローチする方法です。

そのうえで、アプローチの結果のデータも収集して、対象や提案方法を改善すれば売上は飛躍的に上がっていくでしょう。

顧客の属性を分析する一般的な切り口と、「RFM分析」というフレームワークを紹介します。

属性分析

属性分析は、アップセル・クロスセルに成功した顧客とそうでない顧客の属性に違いがないか、明らかにするために分析するものです。自社のターゲットはマーケティング部門などが定めていることが多いですが、そこからさらにアップセル・クロスセルにつながるかどうかを見極めます。例えば、BtoBビジネスならば、アップセル・クロスセルにつながった企業の従業員数や業種になんらかの傾向がないか分析します。

BtoB

BtoC

従業員数
所在地
年齢
住所

業種
売上高
性別
年収

RFM分析

RFM分析は、Recency(直近の購入)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標で顧客を分類する方法です。

Recency(直近の購入)

Frequency(購入頻度)

Monetary(購入金額)

ランク1

1週間以内

5回以上/年

2万円以上

ランク2

1カ月以内

3回以上/年

1万円以上

ランク3

3カ月以内

2回以上/年

5千円以上

ランク4

1年以内

1回以上/年

千円以上

上図のように、3指標を細分化し、それぞれを組み合わせてグループ分けをします。

例えば自社製品をよく利用してくれているランク1や2の顧客には積極的にクロスセル・アップセルを実施し、逆に利用頻度の低いランク4の顧客には、クロスセル・アップセルをしても効果が見込めないため実施しないといった判断ができます。

タイミングも重要

アップセル・クロスセルは、最適なタイミングで訴求しないと効果が出にくいものです。

アップセルの場合、商品を選んでいる段階でより高品質の商品を提案したり、購入確認時にアップグレードを提示したりするのが効果的です。また、サブスクリプションサービスなどでは、顧客が高い満足度を示したタイミングで上位プランを提案するのも効果的といわれています。

クロスセルの場合は顧客が購入を決めた直後が最適といわれています。店舗での取引ならレジでの訴求、ECサイトで言えば購入画面での訴求が有効です。

また、購入確認画面で一定額以上の購入で送料無料になる、というメッセージを表示するのに合わせて関連商品をおすすめするのといったアップセルとクロスセルの合わせ技も効果的です。

アップセル・クロスセルの課題

営業担当者の活動支援

アップセル商材を用意しただけで、営業担当者がそれを活用できるわけではありません。
新規顧客の開拓に忙殺されている営業担当者は、どうしてもアップセル・クロスセルの活動をあと回しにしてしまう性質があるからです。

新規開拓の営業活動とは異なる戦略で動くことになるため、まずは「営業方針を担当者に浸透させる」必要があります。

まず重要なのは、アップセル・クロスセル見込みの高い顧客のリスト化です。部門として「既存顧客すべてにアナウンスしてください」と指示すると、ただメールを送って放置してしまう営業担当者もいますので、「この顧客に対してはこのアップセル商材の受注見込みがあります」というリストを提供し、営業担当者が迷いなくアップセル・クロスセルを提案できるようにしてあげましょう。

また、営業担当者が共通の基準で行動できるように、目的や戦略、顧客との関わり方などを明確に伝えるためのトレーニングや教育プログラムを提供したり、トークスクリプトや営業用資料のひな型を用意したりといった支援が重要です。

アップセル/クロスセルを成功させるためには、戦略を営業活動に関わる組織全体に共有し、一貫性を持った社内プロセスを構築することが重要です。

これらを踏まえてアップセル・クロスセルの手順を紹介します。

アップセル・クロスセルを実践する手順

1.顧客情報の収集・分析を行う

アップセル・クロスセルを実践するにあたって、最初に行うのは顧客情報の収集と分析です。
顧客のニーズを把握していなければ顧客に合わせた商品やサービスを提供できないばかりか、かえって顧客に悪印象を与える恐れがあるためです。
また、購買履歴のデータを分析することで、どの商品がよく売れているか、どの商品がセット販売に適しているかなどを把握可能です。

分析方法は先述のRFM分析と 属性分析を用いて以下のようなポイントを分析します。

  • 既存顧客の属性
  • 顧客の購買履歴
  • 問い合わせ内容
  • Webサイトのアクセス状況

データの収集および分析には「CRM(顧客関係管理システム)」や「SFA(営業支援ツール)」を活用するのが一般的です。上記の情報を自動で収集し分類可能で、詳細に絞り込んだ分析も行えるようになります。

2.購入までのシナリオプランを構築する

次に、顧客情報の分析結果から、シナリオプランを構築していきましょう。

例としてHR業界のリンクアンドモチベーション社のクロスセル戦略を見てみましょう。

リンクアンドモチベーション社の主商品である「モチベーションクラウド」は組織内のコミュニケーションや社員の働き方、パフォーマンスなどをデジタルで可視化し、分析するためのシステムです。

同社はこれに加えて「採用支援」や「人事コンサルティング」「研修」などのサービスも展開しています。

「モチベーションクラウド」による分析で導入企業は自社の課題を具体的に把握することができます。
課題が浮き彫りになった企業は解決策を検討しますが、同社は「採用支援」や「人事コンサルティング」「研修」といったHRにまつわる課題の解決策になりうるサービスも合わせて提供しています。

「企業の課題を明確化するための製品」と「浮き彫りになった課題を解決するサービス」の両方を提供するという戦略は理想的なクロスセル戦略といえます。

このように、顧客がどのように行動するから何が必要かを考慮したシナリオプランを構築します。
その際は、特に以下の項目を重点的に検討するのが効果的です。

  • タイミング
  • 頻度
  • 期間
  • 価格構成
  • 展開する商品の種類

このとき、ただ単に目先の利益を得るためではなく、「アップセル・クロスセルを行うことでさらに顧客の満足度を高める」という意識を持つことが重要です。

アップセルを利用した悪質な事例として一時期コピー機のリースでの「コピー用紙0円プラン」というものが流行しました。

コピー機のリースでは、リース代金とは別に一定期間の間に印刷した枚数によって変動するカウンター料金がかかります。

カウンター料金はインク代やメンテナンス代を含めたものですが、通常コピー用紙の代金は含まれていませんので、別途購入することになります。
そこでリース会社が提案したのが「コピー用紙0円プラン」です。その名の通り、リース契約に印刷枚数分のコピー用が無料で提供されるサービスです。

リース料金が高くなる複合機などの提案時に、あたかもお得になるこのプランを提案することが多かったのですが、実はカウンター料金を高くして調整しているだけのプランです。

通常、モノクロカウンター2円ほどで、A4のコピー用紙も安ければ0.5円ほどです、それを「コピー用紙0円プラン(カウンター料金3円/枚)」で売り出す手法でした。

このような手法は顧客が真実に気付くまでは利益を上げられますが、気付かれてしまえば信頼を失う行為です。

このような目先の利益ではなく、長期的に顧客の満足度を上げるプランを設計しましょう。

3.プランに基づいて実行する

構築したシナリオプランに沿って、施策を実行しましょう。

実行に際してターゲットの選定は、前述の通り「RFM分析」「属性分析」に基づいて行います。

「RFM分析」では直近の購入があり、利用頻度も購入金額も高いランク1~2が初回のアプローチ先として最適です。「属性分析」で言えば、取引実績が多い地域や業種分類を特定してアップセル・クロスセルの提案対象とすると効果が出やすいでしょう。

少しでも営業担当者の負担を減らすため、CRM/SFAを用いることでこうした分析やターゲットの選定、営業担当者の割り振りを自動で行うこともできます。

また、営業担当者やカスタマーサクセスの積極的な行動を促すためには、評価システムに組み込んだうえでトークスクリプトや営業用資料のひな型を用意するのも効果的です。

電話勧誘販売にあたる場合は注意する

電話でのアップセルやクロスセルの提案は特定商取引法で「電話勧誘販売」とみなされる場合があります。

電話勧誘販売は禁止されているわけではありませんが、以下の条件を満たさなければなりません。

  • 自社の名称・担当者の氏名・提案する商品などを明確に伝える
  • 契約の申し込みを受けたら、記載が義務付けられている内容の入った書面を交付する
  • クーリング・オフ制度を適用する
  • 電話での勧誘を拒否した場合には、勧誘の継続や再勧誘はしない

相手に伝えるべき内容や書面の記載事項は詳しく決まっているため、 電話でアップセルを行う場合は特定商取引法についても確認しておきましょう。

出典:電話勧誘販売 特定商取引法ガイド(消費者庁)

4.効果検証を行う

施策は実行して終わりというものではありません。
実施後も継続して効果測定を行い、仮説検証することが大切です。

例えば、3つの選択肢を用意すると消費者は極端性の回避、妥協効果によって中間の選択肢を選ぶ傾向がある「松竹梅理論」と言われるものが知られていますが、これは製品や業界によっては当てはまらない場合もあります。

出典:「選択における文脈効果の出現要因とその方向性科」(加藤 拓巳 埼玉大学 人文社会科学研究科)

どのようなシナリオプランが自社に合っているかは、検証してみるまで分からないものです。

PDCAサイクルを回して継続的な効果検証を行うことが、クロスセルを成功させるために必要です