営業力とは
営業力とは、単に商品やサービスを「売る力」ではありません。顧客の真のニーズを深く理解し、最適な解決策を提案し、信頼関係を構築する総合的な力です。優れた営業担当者は、顧客の課題や目標を共有し、共に解決策を模索することで、顧客から信頼され、長期的なパートナーシップを築くことができます。
いかにチームや組織全体に、優れた営業担当者を増やすかという問題は、長年にわたり営業マネージャーやリーダーにとって大きな課題となってきました。そして現在もこの課題は最重要なものです。全ての営業担当が優れた営業能力を持ち、自社の商品やサービスをしっかり理解して顧客に対応できれば、企業は大きく成長するでしょう。しかし、現代は、営業人材の確保そのものが困難な時代となっています。そこで鍵となるのが、現在のスタッフの営業力をどのように育成・成長するかなのです。
営業力を構成する3つのスキル
1. 人間力
営業力を構成する人間力は、顧客からの信頼につながり、良好な関係を長期的に維持するための基礎となります。人間力の構成要素として、向上心、自律的思考・行動力、ストレス耐性、責任感などがあります。
2. コミュニケーション能力
営業力を構成するコミュニケーション能力は、顧客の課題を正確に引き出したり、顧客と円滑に商談を進める手段となります。コミュニケーション能力を構成する手段として、傾聴力・ヒアリング力、問題解決力、交渉力などがあります。
3. コミュニケーション能力
営業力を構成する知識は、論理的で説得力のある提案を強く下支えします。知識の構成要素として、市場動向に対する感度や顧客理解、商品知識、ビジネス知識などがあります。
営業力の育成
営業力の育成には、営業プロセスの理解と徹底が基本となります。営業プロセスは、潜在顧客の発掘から契約締結までの各ステップを体系化したものであり、各ステップを適切に踏んでいくことで、成約率を高めることができるでしょう。
営業プロセスの流れ
営業プロセスには7つのステップがあります。

条件確認
顧客のニーズ、期待、購入条件を明確にする最初のステップです。この段階で得られた情報は、その後に続く全ステップの基礎となるため、非常に重要です。顧客の課題や目標を深く理解し、信頼関係を築くことが求められます。
ニーズの分析
条件確認で得た情報を基に、顧客の真のニーズを分析します。顧客の課題や目標を明確にし、自社の商品やサービスがどのように貢献できるかを具体的に示すことが重要です。
提案
ニーズ分析の結果に基づき、顧客に最適な解決策を提案します。提案は、顧客の課題を解決し、目標達成に貢献できるものでなくてはなりません。具体的なデータや事例を交えながら、提案の価値をわかりやすく伝えることが重要です。
意思決定
顧客が提案を検討し、購入の意思決定を行う段階です。営業担当者は、顧客の疑問や懸念を解消し、安心して購入を決断できるようサポートします。誠実かつ迅速な対応が求められます。
見積もりの提示
顧客が提案を受け入れた後、詳細な見積もりを提示します。見積もりは、透明性が高く、顧客が理解しやすいものである必要があります。不明点があれば丁寧に説明し、顧客の納得感を高めることが重要です。
交渉
必要に応じて、価格や条件の交渉を行います。双方が納得できる合意点を見つけることが重要です。顧客の要望に耳を傾け、柔軟に対応することで、Win-Winの関係を築くことができます。
受注/失注
交渉が成立すれば受注、成立しなければ失注となります。失注の場合は、その原因を分析し、改善策を検討することで、次の営業活動に活かすことが重要です。
各ステップをもう少し詳しく学びます。
各営業プロセスにおけるポイント
それでは、各ステップをさらに深く掘り下げ、流れに沿って成功するためのポイントを確認します。これらのステップを一つ一つ丁寧に実践し、顧客との信頼関係を築くことで、営業担当者は真の「営業力」を身につけることができます。
条件確認
このステップでは、顧客のニーズや課題を深く理解し、信頼関係を築くことが重要です。営業プロセス全体を通して、特に重要なのがこの「条件確認」です。ここで顧客の状況を深く理解することで、その後のステップがスムーズに進み、成約率を高めることができます。顧客のニーズや課題を明確にするだけでなく、信頼関係を構築するための重要な機会でもあります。逆にこのステップがうまくできていないと、その後のステップのどこかで、顧客とうまくコミュニケーションをとれなくなる恐れがあります。失敗を避けるポイントとして以下が参考になるでしょう。
- 「なぜ?」を繰り返す:顧客の課題やニーズの背景に対して「なぜ?」を繰り返し問いかけることで、真のニーズを明らかにできます。
- 傾聴する:顧客の言葉にしっかりと耳を傾け、共感することで、信頼関係を築くことができます。
- 質問のバリエーション:状況に応じて、開かれた質問や具体的な質問を使い分けることで、より多くの情報を引き出すことができます。
- 確認と要約:顧客の発言を要約し、確認することで、誤解を防ぎ、理解を深めることができます。
ニーズの分析
条件確認で得た情報を整理し、顧客の真のニーズを分析します。ここでの分析は、顧客が求める解決策を明確にし、提案の質を高めるために不可欠です。ニーズの分析が正確であれば、顧客が求める解決策を提供することができ、営業活動の成功に繋がります。以下のポイントを意識します。
- データ分析: 顧客の業界動向や競合情報を分析することで、より深いニーズを把握できます
- SWOT分析: 顧客の強み、弱み、機会、脅威を分析することで、解決策を提案できます。
- 仮説検証: 顧客のニーズに対する仮説を立て、質問や提案を通じて検証することで、より精度の高い分析を行えます
- 顧客の言葉で語る: 分析結果を顧客の言葉でわかりやすく説明することで、共感を深めることができます。
提案
ニーズ分析の結果に基づき、顧客に最適な解決策を提案します。この提案は、顧客の問題解決に直接結びつくものであり、営業力を発揮する重要な場面です。顧客の問題解決に直接結びつく具体的な提案を行うことで、営業力を発揮できます。提案の質が高ければ、顧客は営業担当者の提案を受け入れやすくなります。逆に提案の質が低いと、顧客からの信頼は大幅に低下し、次のステップにも進めなくなるでしょう。以下のポイントを意識します。
- ストーリーテリング: 顧客の状況や感情に訴えかけるストーリーを語ることで、提案の魅力を高めます。
- データと事例: 提案の根拠となるデータや成功事例を提示することで、説得力を高めます。
- メリットとデメリット: 提案のメリットだけでなく、デメリットも正直に伝えることで、信頼性を高めます。
- 質問と対話: 顧客の反応を見ながら、質問を投げかけ、対話を通じて理解を深めます。
意思決定
顧客が提案を検討し、購入の意思決定を行う段階です。営業担当者は、顧客の疑問や懸念を解消し、安心して購入を決断できるようサポートします。例えば、提案内容に対する顧客の質問に的確に答え、懸念を払拭することで、購入意欲を高めることができます。営業担当者が顧客の立場に立って対応することが重要です。以下のポイントを意識します。
- 迅速で的確な対応:提案内容に対する顧客の質問に迅速・的確に答え、懸念を払拭することで、購入意欲を高めます。
- 顧客を最優先:営業担当者は、成約を急がず、常に顧客の立場に立って対応します。
見積もりの提示
顧客が提案を受け入れた後、詳細な見積もりを提示します。見積もりは、透明性を保ちつつ、顧客に納得してもらう内容であることが重要です。詳細な見積もりを提示し、コストの内訳やメリットを明確に説明することで、顧客の信頼を得ることができます。以下のポイントを意識します。
- 見やすいフォーマット: 内容を理解しやすい見積もりフォーマットを作成し、情報を整理して提示します。
- 内訳の説明: 見積もりの内訳を詳しく説明し、顧客が納得できるようにします。
- オプションの提示: 顧客のニーズに合わせて、追加オプションを提案することで、成約率を高めます。
- 質問への対応: 見積もりに関する顧客の質問に丁寧に答え、不安を解消します。
交渉
見積もりに対する顧客の反応に応じて、価格や条件の交渉を行います。顧客の要望に応じて価格や条件を調整し、双方にとって最適な合意を見つけるステップです。ここでは、顧客との合意を得るための柔軟な対応が求められるので、担当者の総合的な能力が試される瞬間でもあります。以下のポイントを意識します。
- 交渉術: Win-Winの関係を築くための交渉術を習得します。
- 代替案の提示: 顧客の要望に応えられない場合は、代替案を提示することで、交渉をスムーズに進めます。
- 妥協点: 双方が納得できる妥協点を見つけることで、合意の達成を目指します。
- 契約条件の確認: 交渉が成立したら、契約条件を再度確認し、誤解がないようにします。
受注/失注
交渉が成立すれば受注、成立しなければ失注となります。失注した場合、その原因を分析し、次回に活かすためのフィードバックを得ることが重要です。以下のポイントを意識します。
- 失注分析: 失注の原因を分析し、改善策を検討することで、次の営業活動に活かしていきます。
- 顧客の声: 失注した顧客からフィードバックを得ることで、改善点を見つけます。
- 成功事例の共有: チーム内で成功事例を共有することで、お互いに学び合い、成長できます。
- 継続的な改善: 営業プロセス全体を継続的に改善することで、成約率を高めることができます。
営業力強化のポイントは個人スキル依存からの脱却
営業力に個人のスキルは重要ですが、実は個人の営業力アップにフォーカスするよりも個人スキル依存から脱却し、「組織としての営業力をいかに伸ばすか」に焦点を当てる方がはるかに効果的で効率的です。
ここでは、科学的で組織的な営業アプローチを取り入れて成長した企業の事例をいくつか紹介します。
米国SaaS企業から拡大した営業の分業制
人材の流動性が高い米国で、SaaS企業が導入した営業の分業制は、見込み客の獲得や商談獲得、契約といった段階を分けたもので、部門ごとの実績を数字で把握する仕組みです。世界シェアトップ企業のこの仕組みを日本でも取り入れる企業が拡大。「SaaS企業を中心とした営業分業組織」に関する調査では、SaaS営業職の3割が分業によって業務が効率化し、生産性が上がったと回答し現場から評価されています。
営業の仕組み化、再現性にこだわるキーエンス
キーエンスは、営業利益率54%という驚異的な数字を叩き出す、国内でも有数の時価総額を誇る企業です。
キーエンスでは営業手法を徹底的にマニュアル化し、プレゼン資料は、過去に成約に至った顧客の属性や課題、ニーズ、製品に関する豊富な事例をもとに専門部署が作成します(出典: 金融ジャーナリストの伊藤歩氏の寄稿)。営業担当者の行動も徹底的に数値化。同社OBの鈴木眞理氏も「営業の仕組み化、再現性にこだわりを持っている」、と強調しています。
優れた営業プロセスの「可視化」で個人のスキル依存から脱却する
米国SaaS企業やキーエンスは、いかに営業プロセスを「可視化」して、成果の再現性を担保するか、に注力することによって営業力の強化に成功しています。
例えば、「売れる営業は予算を必ず初回で確認している」と商談内容で確認できれば、「予算は初回で聞く」ことを共有し、それを踏まえて別の担当者がトークスクリプトを使いはじめたことが分かればそれを共有してさらに勝ちパターンを再現していく、といった具合です。
では、具体的に何を「可視化」すればよいのでしょうか?
顧客の可視化
自社の顧客は誰なのか、正確に捉えられていますか。既存顧客の属性を数字で捉えることは、ターゲットを整理に役立ち、限られたリソースの「選択と集中」を明確にします。
営業活動の可視化
営業担当者が月にどのくらい架電して、どの位訪問して、どのくらいの額の見積もりを発行しているか把握していますか。営業活動を可視化することで効率化の糸口が見えます。
セールスファネルの可視化
今どのくらいの見込み客を抱えて、どのくらいが商談、見積もり、成約するか把握していますか。段階(セールスファネル)を可視化することでボトルネックを突き止められます。
ナレッジの可視化
キーエンスのように徹底的に事例や資料、プレゼン方法を共有し合うことで、しなくてもよい試行錯誤の段階を一気に飛ばすことができます。
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